商用車では意見を聞くべきユーザーは四人いる。


この言葉は『ものづくりのヒント』(かんき出版刊)の中に出てきた言葉です。
著者は岸田能和(きしだ・よしかず)さん。
岸田さんは、カメラメーカー、住宅メーカー、自動車メーカーで主にデザイン実務を担当。
2001年当時は日用雑貨メーカーで商品企画に携わっています。


ユーザーと聞くと、使っている人をつい思い浮かべがちです。
商用車だと運転する人ですね。


自動車メーカーで開発部門からマーケティング部門に異動したばかりの岸田さんは
「商用車では意見を聞くべきユーザーは四人いる」
と聞かされたそうです。


もちろん、一人目のユーザーは「ドライバー」ですね。
彼らは、自分の車ではないから車両価格や経済性については関心がありません。
しかし、企業の経営者となるとそうはいきません。つまり、
二人目のユーザーは「経営者」です。

そして三人目のユーザーは「車両管理者」です。
彼らは経営者とドライバーの間に立ち、
運転がしやすく、経済的なクルマを購入し、維持管理する役割があります。


岸田さんはこの三人目までは想像がついたのですが、
「もう一人いる」と言われ、頭を抱えました。


先輩が教えてくれた四人目のユーザーは、「商用車が仕事をする先でのお客様」でした。
つまり、いくら運転がしやすくて、経済的で、耐久性があっても、
黒い煙をもうもうと吐きながら走っていたり、
いかついデザインのクルマで閑静な住宅地に荷物を配達すると、
それだけで運送会社などにはクレームが来て、そのクルマは拒否されるのです。
したがって、「商用車が走りまわる先の人たち」も重要なユーザーなのです。


同じクルマであっても立場が違えば、まったく視点が変わってしまいますね。
これは商用車にかぎったことでないでしょう。
乗用車であろうと、家電品であろうと、同じはずです。
ユーザーを分けて考えてみると、同じものでもずいぶんと違って見えてきますし、
いろいろなヒントがありそうですね。


この本は月刊トークス2001年9月号でご紹介しました。
 http://www.talksnet.jp/backnumber_2001.html#200109